蛇の抜け殻をぶら下げて歩く

しゃぼん玉が飛んでいった先で

指に止まるはずの蜻蛉の目が落ちていく

足の裏に傷はないのに

親不知が追いかけてくる

罪の在りかが空として

奥深くえぐっていくようなロケットのくるぶしが

回転した雲と月に阻まれる

まばたきは三回

木の肌をなでる手つきで

蝉が悲鳴を乾かしている

夏を掘り進み

走っていく過程で

裏返しの憧れを追い越していた

残照 松明 ダムの水

吐くことでしか投影されなかった哀しみが

足元できいろい炎をあげる

肺の中に錆はない

爪をはがそうとするバッタの前歯

蝉の腹は跳ねて

重なった叫び声が攫われていく

どこにも毛布はない

虹の舟底から取り出した箱に

まだ目の開かない子猫が入っている

検証される死体の山から

オオサンショウウオは這い出し

やれやれといったふう

あとは死骸食らいの獣たちにまかせる

なにかのまちがいで運ばれてしまっただけなので

のそりのそり

川を経由して深い山の淵に帰る

淵には

人魚が住んでいて

ガーデニングが趣味

これもまた何かのまちがいで

幼魚の頃に落ちてきた

以来ここに居座っている

沢から川を延々とくだれば

太平洋にもカリブ海にも行けるのに

オオサンショウウオには理解しがたい

魚よりは近いと思うのだが

(腕を二本持っているし)

そうでもないのかもしれない

常識は疑う主義

きれいに整えられた水草と苔の庭を抜け

自分の茶室に横たわると

自然と息も深くなるもの

ぷかりぷかり泡を吐く

体についた空気の匂いが

染み着く前に

朝露で身を清めたい

思いながらうたたね

もれる泡がのぼっては弾ける

人魚がめずらしがって

瓶に詰める

ラベル「冬眠はほどほどに」

星占いは信じないと言ったひとの背中から

ペガサスの翼が生えて

たいていのところには自分で行ける

自信と裏腹に不安のにじむ眼差しで

青く大きな河を前にしている

星が流れていく

柳が揺れるように筋になり渦巻きになり

絶え間なく星が流れていく

空よりも川面に照らされて

体が持ち上がり

君は星の上を飛んでいく

まるで大きな白鳥のように

照らされながら上流へと

河のはじまりにあるという

星の生まれる場所へ至る

明乎 akiko

詩を書くこと。朗読。